アンドレ・ポレンダー André Pollender
「ピック・ボア」の主人、アンドレ・ポランダーさんは、1813年にドイツからカナダに渡ってきた移民の家系の生まれです。一家は代々、この土地でメープルシロップ農家を営んできましたが、アンドレさん自身は家業を継ぐことはせず、実家を離れて家具づくりの道に進みます。しかし、いつしかアンドレさんは、自分が日々、口にしているメープルシロップが、子供の頃に慣れ親しんでいたものとは何か違うと感じるようになります。いつの間にか、メープルシロップづくりは近代化されていたのです。樹液は、幹に差し込まれたタップからパイプをつたって直接、タンクに集められるようになりました。樹液を煮詰める前には逆浸透圧装置を使って水分の約70%が飛ばされるので効率的です。そして樹液は薪ではなく、ガスの炎で煮詰められていました。
お父さんが亡くなったあと、放置されていた砂糖カエデの林に戻ることを決めたアンドレさんは、家具づくりの経験からシュガーシャックの名前を「キツツキ= Pic Bois(ピック・ボア)」と決め、昔ながらの製法でメープルシロップづくりを始めたのです。幹にバケツをぶら下げて1本1本から樹液を集めます。手作業で糖度をはかりながら薪の炎で樹液を煮詰めていきます。アンドレさんは、パイプで樹液を集めたり、逆浸透圧装置を使うことで味に決定的な違いが出るとは考えていません。しかし、昔ながらの製法で、シチューやソースをつくるようにコトコト煮詰めることでカラメルのような風味が出るとアンドレさんは言います。そして薪の炎を使うことによってシロップはほんのりとスモーキーな香りをまとうようになるのです。
アンドレさんは、極上のメープルビネガーのつくり手としても知られています。 「ふつうのメープルビネガーは酸味が強いものが多いけれど、自分は酸味がありながらメープルシロップの甘さも残し、引き立て、さらに森の香りがするビネガーを作りたかったんだ」とアンドレさん。その製法は、おばあさんが残したレシピをベースにしながら、アンドレさん自身が作り上げたオリジナルです。一般的なメープルビネガーは、砂糖カエデの樹液を発酵させたものだけで作るのに対し、アンドレさんのビネガーは、さらにメープルシロップを発酵させたものも使います。シロップの発酵過程をいつストップさせるか、そのタイミングが「企業秘密」なのだそうです。アンドレさんのメープルシロップもメープルビネガーも、世界でここにしかない味と言えるでしょう。