ロバート・クラーク Robert Clark
「ロブさん」と呼びたくなるような、少しはにかんだ笑顔を見せるのが、バンクーバーで「フィッシュカウンター」を経営するシェフのロバート・クラーク。ロブはかつて、バンクーバーでもトップと言われるシーフードの店「Cレストラン」でエグゼクティブ・シェフを務めていました。しかし今は一流店のトップという地位を離れ、自らの意思でフィッシュ&チップスをメインとする小さな店に立っているのです。
ロブにそんな決断をさせたきっかけは、毎日自分が扱っているシーフードがいつ、どこで、どのようにして捕られたのかを実は知らない、と気づかされたことでした。ロブは、自ら漁師のもとに足を運び、魚や漁についての知識を深めるうち、底引き網などで魚を一網打尽にするような捕り方には問題があると考えるようになりました。 「一網打尽」を続ければ、目的以外の魚種や大きさの魚もいっしょに捕ってしまうため膨大な無駄が発生し、海の環境にも深刻なダメージを与えかねません。そうなれば、自分の子供や孫の時代には、今捕れている魚も捕れなくなるし、今と同じようにシーフードを楽しむことはできなくなってしまうと危惧したのです。
そこでロブはバンクーバー水族館に相談し、2005年に「オーシャンワイズ」という取り組みをスタートさせます。この運動のポイントは、サステイナブル(持続可能)な方法で捕られたシーフードを使ったメニューを少しずつでいいから増やすよう、シェフやレストランに働きかけるという手法をとったことです。つまり、レストランがサステイナブルなメニューを増していくことで、レストランに魚を納品する漁師も徐々に考え方を改め、料理を食べるお客もだんだん意識を変えてくれるだろうと考えたのです。
ですからロブは言います。「自分は2つの観点からオーシャンワイズのプログラムを考えているんだ。1つは、世界に対しての責任を持つということ。もう1つはビジネスとして失敗しないようにすること」。「世界への責任」とは、まさに将来世代もシーフードが食べられるよう、今の世代がしっかりとその責任を果たしていくこと。しかし同時に、ビジネスとして成立していないと「オーシャンワイズ」の考えは広がりを持たなくなってしまう、ということです。ロブが提唱した考え方はバンクーバーにとどまらず、カナダ各地で広がりを見せているのです。