バンクーバーの「きこり」
近代的なビルが立ち並ぶバンクーバーは、そのイメージに反して実は「きこり」の街でもあります。カナダ太平洋岸には暖かく湿った空気が流れ込むことから、温帯雨林と呼ばれる巨木の森が広がっています。ブリティッシュ・コロンビア州内の森では、昔からたくさんの木が切り出され、バンクーバーの製材所に集められて加工されたあと、船や鉄道で各地に運ばれていきました。そんな土地ですから、今でもバンクーバー空港に着陸する飛行機の窓からは、川に浮かべられた丸太をたくさん見ることができます。
さて、きこりの街バンクーバーには、「デイトン・ブーツ(DAYTON BOOTS)」という名のワークブーツブランドがあります。ジョニー・デップやアンジェリーナ・ジョリーら数多くのハリウッドスターも愛用するおしゃれなブーツですが、そのベースになっているのは頑丈第一のきこりのブーツでした。ギャスタウンできこりのブーツを修理していた創業者が、その頑丈さを生かしながらファッション性の高いブーツを提供するデイトン・ブーツを開業したのは1946年のこと。最初に世に送り出した伝説のモデルの名は、ブーツの修理をしていたギャスタウンの番地から「デイトン64」と名付けられました。その頑丈さゆえ、デイトン・ブーツを履いた人はバーへの入店が禁止され、入口に「NO DAYTON」と掲げられていた時期もあったとのこと。理由はもちろん、酔って喧嘩になった時、頑丈なブーツでのキックが凶器になりかねないからでした。
またバンクーバーからはかつて、日本に向けて大量の巨木が船で運ばれたこともあります。1970年、大阪で開催された万国博覧会の会場に建設された「ブリティッシュ・コロンビア州館」の建材とするためでした。トーテムポールの材料となるレッド・シダーと並び、温帯雨林を構成する主要な樹木であるダグラス・ファー(もみの木)の巨木が切り出され、バンクーバー港で船に積み込まれて太平洋を渡りました。神戸港に陸揚げされたもみの木は深夜、高速道路をトラックで万博会場まで運ばれたといいます。日本とカナダの「TSUNAGARI」に巨木が一役買ってくれているようにも思えてきます。また明治以降、仕事を求めてバンクーバーに渡った多くの日本人は、伐採や製材所での仕事に従事しました。彼らが切り出した巨木はどこで何に使われたのだろう、彼らはどんなブーツを履いていたのだろう、などと想像するのも、また旅の楽しみ方のひとつでしょう。