オカナガンワインの大逆転
ブリティッシュ・コロンビア州の内陸部、カナダで唯一の砂漠地帯であるオカナガンは、カナダを代表するワイン産地のひとつです。太古の昔、カナダの大地に降り積もった雪が押し固められて巨大な氷河となり、少しずつ移動しながらこのあたりの地表を深くえぐったことで、両側を山にはさまれた渓谷とオカナガン湖が生まれました。その素晴らしい風景から、ここを「世界一美しいワイン産地」と呼ぶ人もいるほどです。
ただし、注目すべきは風景だけではありません。カナダにはワイン産地というイメージはあまりありませんが、実はオカナガンのワインは有名なコンクールで賞を受賞するなど、世界でもトップクラスの評価を受けているのです。氷河は移動しながら大地を削りとり、湖の両側にさまざまな種類の土壌を残すこともしました。また複雑な形になった山々のおかげで、オカナガンはちょっと場所が変わると風の吹き方や太陽の光のあたり具合などがまったく違い、アイデア次第でさまざまな味のワインを作り出すことができるという特徴があります。
ただし、オカナガンのワインが世界トップクラスにまで急成長を遂げることができたのは、実は「外圧」がきっかけでした。カナダ、アメリカ、メキシコ3カ国による北米自由貿易協定(NAFTA=ナフタ、1994年発効)を前に、当時、お世辞にもおいしいとは言えないワインをつくっていたオカナガンは、窮地に立たされました。条約によってアメリカのカリフォルニアで大量生産される安くておいしいワインがカナダに入ってくれば、オカナガンのワイン産業などあっという間に吹き飛ばされてしまうのは確実だったからです。
そこでオカナガンでは行政と農家がいっしょになって、畑からブドウの木をすべて抜き、質のよいブドウを植えることから始めたのです。そして、ワイン先進地に修行に行ったり、腕のいい職人を招いたりと、ワインづくりを一からやり直した結果、土壌や風、日照などそのユニークな条件もあいまって高品質のワインがつくれるようになりました。すると世界各地から、オカナガンでワインを作りたいという人が次々に移住してくるようになり、ますます世界が注目するワイン産地となっていったのです。ただしワイナリーは小規模、家族経営といったところが多く、日本にはほとんど輸出されていません。カナダでオカナガンのワインを楽しめるのは、実は大変ラッキーなことなのです。