年に一度、砂糖カエデの幹から樹液がこぼれ落ち、甘いメープルシロップづくりが始まるころ、長かったケベックの冬はようやく終わり、暖かな春を迎えます。だからケベックの人たちは、親戚や仲間がシュガーシャックに集まり、今年の収穫と春の訪れを祝う楽しいパーティーを開きます。「シュガーリング・オフ・パーティー」と呼ばれています。
シュガーシャックは街から離れた林の中にあります。だからパーティーと言っても、豪華なご馳走が出てくるわけではありません。ハムと豆のスープ、スモークした豚肉、ソーセージ、ベイクドビーンズ、卵のスフレ、小ぶりのジャガイモを輪切りにしたプライドポテト、ピクルス、などなど。変わったところでは、塩漬けにした豚の脂をカリカリに揚げたおつまみのような食べ物もあります。これらはみな、森の中にこもって働く「木こり」の料理に由来しています。
みんなが集まったシュガーシャックには陽気なアコーディオンの演奏が鳴り響き、ワイワイ、ガヤガヤ近況を語り合ったり、すっかり大きくなった親戚の子どもの成長ぶりに驚いたりしています。アコーディオンの音にあわせ、2本のスプーンをカスタネットのようにしてリズムを取る人もいます。パーティーの主役はもちろん、メープルシロップ。各テーブルには必ずメープルシロップの瓶が置かれていて、ハムやソーセージ、スフレなどの料理にたっぷりとメープルシロップが注がれます。甘いデザートにも、やはりたっぷりのメープルシロップによって甘さが加えられ、食後のコーヒーにも砂糖代わりにメープルシロップが使われます。
そして、シュガーリング・オフ・パーティーに絶対欠かせないスイーツこそが、日本ではほとんど知られていない「メープル・タフィ」です。平らにならした雪の上に温めたメープルシロップをたらすと徐々に温度が下がって固まり始めます。それを木の棒やへらでクルクルと巻きとっていくと、柔らかい飴のようになるのです。昔は、シュガーシャックのまわりに積もっている雪の上に直接、暖かなメープルシロップをたらしてタフィをつくっていました。ケベックの人たちはみんな、子どもの頃にこのメープル・タフィを味わった経験があります。ケベックで暮らす人たちにとってメープル・タフィは、シュガーリング・オフ・パーティーでおじいちゃんが、お父さんがつくってくれた懐かしい甘さです。同時にそれは、やっと春がやってきたという喜びの甘さでもあるのです。