「バッファロー」という通称で親しまれてきたバイソン。カナダの文化やカナダらしさの象徴ともいえる動物で、生態系を豊かにする上でも重要な働きをしています。バイソンはまた、先住民の宗教や文化にも大切な役割を担ってきました。
大自然のシンボル:かつて北アメリカには、カナダ北部からメキシコにかけて、6000万頭にもおよぶバイソンが自由に暮らしていました。ところが、乱獲によって1800年代後半には絶滅寸前にまで追い込まれます。1888年、野生のバイソンはカナダからすっかり姿を消しました。その後、カナダ野生生物保全協会や国立公園管理局などの組織による保護活動が実を結び、カナダ各地で野生のバイソンが見られるようになりました。バイソンは主に大草原や川のほとりで見られます。カナダ最大の陸上動物で、大きな個体では重さが900キロにもなります。プレーリー州(アルバータ州、サスカチュワン州、マニトバ州)に生息していますが、北部カナダ(ユーコン準州、ノースウェスト準州)やブリティッシュ・コロンビア州の一部地域でも見られます。

先住民とのきずな:先住民の文化において、バイソンは大昔から大切な存在でした。少なからぬ先住民のグループがバイソンと物質的にも宗教の上でも深くつながっていたのです。彼らは何千年もの昔から、バイソンの皮や肉で衣・食・住をまかない、様々な部位を利用して道具類を作り、使いきれない皮や肉は物々交換にまわし、また、バイソンを中心として社会的な活動や儀式を行ってきました。バイソンを狩るのに適した特別の場所がありました。例えば、バッファロー・ジャンプ(バイソン・ジャンプ)と呼ばれる崖です。バイソンの群れを大暴走させて、崖っぷちから追い落とし、大量に捕獲したのです。その一つが、アルバータ州にあるヘッド・スマッシュト・イン・バッファロー・ジャンプ。6000年以上に渡る大平原のバッファロー文化を今に伝える場所として、ユネスコの世界遺産に登録されています。アルバータ州スモーキーレイク地区にある、先住民メイティの文化を紹介する施設メイティ・クロッシングのCEO、ファニタ・マロアは、Adventure.comの取材を受けて、「バッファローは私たちが自由でいるための土台みたいなものです。私たちはバッファローから学び、バッファローを通して自分たちを治めてきました。これからどう進んでいくかも、そうやって決めるんです」と語っています。
生態系のかなめ:バイソンは、生きものが暮らせる様々な環境を育み、大小何百種類もの生きものがその恩恵に預かります。バイソンはいろんなやり方で生態系を豊かにしているのです。バイソンはしばしば地面を転げまわって砂浴びしますが、その結果できる窪地に雨水が溜ると、草原の生きものにとって一つの生息環境となります。また、バイソンの排泄物は虫の卵や幼虫を育み、そうした虫たちは、草原に暮らす絶滅が危惧される様々な種類の野鳥の食べ物となります。生息地である草原を保全する働きもあることから、気候変動対策にも一役買っています。
バイソンに出会う:カナダに来たらバイソンの歴史や文化に触れてみませんか?バイソンに出会えそうなスポットをご紹介します。ただし、忘れてはならないのは、バイソンは大人しくてのろまに見えるかもしれませんが、実のところ、巨大な体で突然襲ってくるなど予期せぬ行動をとり、危険を引き起こす可能性があるということです。バイソンを観察するときは100メートル以上の距離を保ち、エルク・アイランド国立公園が定めた指針に従いましょう。
アルバータ州
エルク・アイランド国立公園は、バイソン保護活動に重要な役割を果たしています。カナダ政府は1907年から1912年にかけて、700頭を超える野生のバイソンを同公園に送り込み、バイソンの復活をめざしました。バイソンには、大平原に住むヘイゲンバイソン(平原バイソン)と、森林地帯に住むシンリンバイソン(森林バイソン)という、二つの地域グループ(亜種)があります。現在、同公園は、平原バイソン約400頭と、森林バイソン約300頭が生息する保護区となっています。また、長年にわたってカナダの平原バイソンのいわば〝供給源〟として機能しており、エルク・アイランドから他の公園に個体群が移送されています。深掘情報:バイソン・バックステージ(ワコトウィン・ビジター・センター近くにあるヘリテージ・バーンで週末のみ実施)は、同公園内のバイソン保護活動の舞台裏を見るツアーです。平原バイソン管理施設を見学し、バイソンの歴史、バイソンが大草原の景観に与えた影響、継続的な保護活動への公園スタッフの取り組みを学びます。ツアーは全行程1時間で、1キロほどの移動を伴います。公園のエキスパート:バイソン保護の生き字引のような存在がエルク・アイランド国立公園の上級生態学者ジョナサン・デムーアです。

アルバータ州とノースウエスト準州の州境にまたがる広大な生態保護区、ウッド・バッファロー国立公園は、1922年に、当時残り少なくなったバイソン個体群を保護することを目的に設立されました。このことからもわかるように、公園の歴史はバイソンと切っても切れない関係にあります。現在、同公園のバイソンは、人の手が入らず自由に生息する野生個体群としては世界最大規模です。3,500頭の個体が道路上をのんびり歩く光景など、カナダ北部を訪れる人々に忘れられない体験を提供しています。観察豆情報:公園内はどこでもバイソンに遭遇します。公園にいる間は、野生動物への安全対策を徹底してください。
国立公園管理局は2022年11月、「平原バイソン野生復帰事業実証実験報告書」(2017〜2022年)を発表しました。報告書には、バンフ国立公園の1,200平方キロメートルの区域に16頭を移送した結果、現地環境にどのような影響が見られたかがまとめられています。これまでに個体群は年に33%増加していて、8年後には200頭を超える見通しです。1世紀ぶりに野生の平原バイソンが復帰したことは、歴史的にも環境保全の上でも文化的にも画期的な出来事となりました。深掘情報:バンフ国立公園のバイソンの最新事情はカナダ国立公園局のバイソン関連ブログで閲覧できます。
メイティ・クロッシングでは、「ビジョンズ・ホープス・アンド・ドリームズ・ワイルドライフ・ツアー」を開催しています。ツアーでは、珍しい白いバイソンや、森林バイソン、平原バイソンのほか、エルク(大鹿)やペルシュロン(ウマの一種)なども見学できます。野生のバイソン(先住民とヨーロッパ人の間に生まれた子孫であるメイティの言葉、ミチフ語では「ブフルー」)が最後にこの地域で見られたのは、数千人のメイティが集まってバイソンを狩りに出た1865年のことでした。こうした狩猟隊の秩序を保つためのルールや制度がもとになって、メイティの法律や司法制度が発達していったのです。ツアーは2時間で、この地域のバイソンの歴史が学べます。また、牧場でバイソンを間近に観察することができます。
サスカチュワン州
6000年以上も昔、ワヌスケウィン・ヘリテージ公園がある土地では、バイソンが駆け回り、北部平原からやってきた先住民の声が響いていました。バイソンが絶滅してから150年を経た2019年12月、ワヌスケウィンは国立公園管理局と提携し、かつての生息地であるプレーリーにバイソンを取り戻しました。以来、保護活動で復帰させた個体群から新たな世代が誕生しています。さらにアメリカからのバイソンも導入し、健全な多様性ある個体群数になるよう活動を展開しています。観察豆情報:同公園のバイソン観察路(徒歩で15分ほどの長さ)を歩くとバイソンの群れに出会うことができます。
プリンス・アルバート国立公園は、カナダで数少ない野生の平原バイソン個体群が生息しています。現在、国立公園管理局は、バイソンの数を同公園周辺の自然の中で健全に繁殖できる水準まで回復させようと、他の機関とも共同して管理と研究を進めています。観察豆情報:同公園西側にあるバレービュー・トレイル・ネットワークでは、スタージョン川の平原バイソン個体群が観察できます。現在、個体数は120頭と推定されています。

マニトバ州
ウィニペグにある都市型草原保護区、フォートホワイト・アライブには267ヘクタールの再生された緑地があり、都市に隣接した地域のバイソンとしては世界で最も大きな群れが暮らしています。この個体群が現地に移送されたのは1999年。マニトバ州バイソン生産組合から寄贈された5頭、ライディング・マウンテン国立公園から寄贈された17頭です。それ以来、毎年春に数十頭の赤ちゃんが生まれています。観察豆情報:観察にはいくつかの方法があります。ベビー・バイソン・ウォーク(5月・6月)は、マニトバ州のバイソンの状況を紹介し、かわいいバイソンの赤ちゃんを見学します。バイソン・サファリ(夏期)は、プレーリーでバイソンを間近に観察できます。プレーリーの遺産:バイソン&ピープル・ツアー(夏期)は森、プレーリー、湖を巡り、平原クリー族のティピーも体験します。
ライディング・マウンテン国立公園のアウディ湖畔バイソン・エンクロージャーには、1931年に野生復帰のために再導入したバイソン個体群が暮らしています。当時の個体数は20頭でしたが、その後、倍増しました。観察豆情報:バイソン・エンクロージャーは、ワサガミングやオナノールの町から車で45分。現地でキャンプも可能です。
