気候変動が時代の典型的な課題になった今、安い使い捨て衣料を大量生産する「ファスト・ファッション」に対抗する動きが盛り上がりつつあります。長期に渡って使えるように丁寧に作られていて、リサイクルやオーガニックに重きを置いた衣料の人気が高まっているのです。 こうした流れの先頭を走っているのが、カナダです。

配慮の行き届いた衣料:サステナブル・ファッションとは、本質的に環境負荷を最小限に抑えて製造・流通の衣料を指します。多くのサステナブル・ブランドは、エシカル・ファッションの要素も兼ね備えています。エシカルとは、倫理観を持って社会に配慮しているという意味で、社会福祉や労働者の権利を高めるような形で製造される衣料を指します(例えば、最低限の生活ができるだけの賃金を従業員に支払い、安全な労働条件を保証するなど)。こうした企業は、自社の事業活動による環境負荷に目を光らせていて、事業活動を対象とした認証制度「Bコーポレーション」の認証を取得済みの企業もあります。また、可能な限りサステナブル原料を使用して、ファッションの循環型経済に寄与しています。

地域社会の要として:こうした独立系の零細事業は、歩行者に優しく地域密着型で、独自色と活気があふれる街づくりにも貢献しており、地元住民にも観光客にも魅力的な街を生み出しています。

デザインのルーツ:ファッションは、その環境の産物であり、サステナブル・ファッションとなれば、なおさらその傾向が強まります。当然、カナダのファッション・デザイナーの作品も、カナダならではの自然美や豊かな文化遺産に触発され、影響を受けています。その意味では、まさにサステナビリティに根ざしている先住民のファッションに触れないわけにはいきません。先住民出身のアーティストは、先祖代々伝わる独創的な手法を取り入れています。それは、自然に敬意を払い、地元産の素材を使い、古いアイテムに新たな生命を吹き込む活動に打ち込んでいます。そんな地元や海外の先住民デザイナーが手がける衣料は、トロント先住民ファッション・ウィークバンクーバー先住民ファッション・ウィークなどのイベントで紹介され、脚光を浴びています。また、繊細な趣がある手づくりのサステナブルな衣料が好みなら、レスリー・ハンプトンなど、不動の地位を築いているデザイナーのコレクションもあります。ハンプトンの手がけるアイテムは、オンタリオ州トロントでオーダーメードに対応しており、衣服に直接印刷するDTG方式を採用しているため、水の使用量にもほとんど無駄がありません(従来型の生地染色には大量の水が使用されています)。

賢い買い物:カナダ旅行中のショッピングも、サステナビリティを意識したいもの。移動は公共交通機関を使い、歩行者に優しいショッピング地区を訪れ、リサイクル商品やアップサイクル(再利用に当たって元の製品より価値の高いものに転換すること)商品、エシカルでサステナブルな商品を選ぶことが大切です。その観点からカナダのお薦めスポットをご紹介します。

ブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバー
世界一のグリーンシティを志向し、さまざまな計画を打ち出すバンクーバー。何十年も前からサステナブルでエシカルなファッションを大切にしてきました。

テンツリー:その名のとおり、商品が1つ売れるたびに10本の木を植える方針を掲げており、すでに5000万平方メートル以上の植樹を支援し、大気中の膨大な二酸化炭素の削減に貢献しています。さらに、リサイクルで循環型を追求したオーガニック素材の生地を使い、廃棄物や水の使用量を削減しています。場所:テンツリーの衣料品は、「メイク」(デュランロー通り1648にあるグランビルアイランド店がお薦め)などの販売店で扱われています。

ビリー・ウッド・デザインズ:古い床板や壊れたスケートボード、再生硬材を生かし、西海岸テイストあふれるユニークなジュエリーを販売しています。こうした床材やスケートボードなどは普通ならゴミになってしまうところですが、このお店の手にかかると、一躍注目を浴びるアイテムにアップサイクルされます。場所:イースト・ヘイスティングス通り1235

フランク・アンド・オーク:長年の友人同士であるヒシャムとイサニンが2012年に立ち上げたフランク・アンド・オークは、誰もが気候変動との戦いに積極的に関わり、未来を明るくすることが可能という強い信念の下で誕生しました。同社のサステナビリティを追求する精神は、配送用の箱に再生紙を利用(アース・デイ・カナダとのパートナーシップによるカーボンオフセットも実施)、領収証の用紙はサステナブルに管理された森林の木材パルプを使い、店舗も再生材を使用し、店内什器もアップサイクル品という徹底ぶり。場所:ブリティッシュ・コロンビア(BC)州、ケベック州、オンタリオ州の各地に店舗あり

オンタリオ州トロント
クイーン・ストリート・ウエスト地区は、活気あふれるファッションの街。ビンテージ物を揃えた古着屋やスロー・ファッションのブティックで賑わっています。

➢ ママ・ラブズ・ユー・ビンテージ:メロ・アンフィールドとマホロ・アンフィールドの母娘が切り盛りするビンテージショップ。膨大な古着の中から厳選したとっておきの高品質アイテムを販売しています。元々、1900年代〜1990年代に世に登場した服の中から厳選したアイテムを1つひとつクリーニング、補修、アイロンがけして、真新しい姿でお店に並べ、再び人々に着てもらうサイクルを生み出しています。場所:クイーン・ストリート・ウエスト541

シャルトルーズ・スタイル:環境に優しい衣料品、アクセサリー、自然化粧品など地元で生産されたアイテムが揃っています。商品は、製造過程・履歴について入念な調査の末に調達していて、フェアトレードと認証済み製品を優先的に扱っています。場所:クイーン・ストリート・ウエスト1692

Kotn(コットン):小規模ビジネスながら、エジプトやポルトガルの綿花農家と直接取引し、現地の町おこしに手を貸すと同時に、健康的な労働環境づくりに尽力しています。また、同社は、労働者への公正な賃金の支払いを保証し、児童労働の連鎖を断ち切るため、識字率向上に取り組む団体と手を組んでいます。場所:クイーン・ストリート・ウエスト754(モントリオールのサンビアトー通り西29にも別店舗あり)

オンタリオ州オタワ
オタワきってのファンキーな地区といえばウェリントン・ウエスト。ここにはサステナビリティを重視する独立系の古着屋がひしめきあっています。

ビクトワール:「カナディアン・デザインに夢中」がキャッチフレーズの同店は、地元デザイナーにスポットライトを当てた品揃えに力を入れています。サステナブルな衣料の品揃えに加え、取り扱い商品の20%をBIPOC(黒人・先住民・有色人種)がオーナーのブランドに設定しています。同店オーナーのケイティとレジーンは、先住民出身デザイナーの比率を高める活動にも熱心に取り組んでいます。場所:ウェリントン・ストリート・ウエスト1282

➢  フロック・ブティック:150人以上のカナダ人デザイナー(しかも、そのほとんどが女性)によるアイテムを取り扱うビンテージ・ブティックです。場所:ウェリントン・ストリート・ウエスト1275

➢  テラ20:このが美容・スキンケア専門店では、すべての商品について、動物成分を含まず、動物実験をしていないこと、無毒性であること、倫理的な問題がないことを徹底的に調査したうえで調達しています。場所:ウェリントン・ストリート・ウエスト1130(ほかにもオンタリオ州に2店舗あり)

マニトバ州ウィニペグ
賑やかな「商業取引地区」は、20世紀初頭の建物が並ぶ20ブロックほどのエリアで、今はおしゃれなブティックやビンテージ品を扱う専門店など、独自色あふれるショップが揃っています。

サラ・スー・デザイン:麻や竹、綿などエコな繊維を使った衣料品はすべてカナダ産。しかも大半は先住民とカナダ連邦政府との条約(条約1)で取り決められたウィニペグの領土内で生産されています。時代を超えて変わることのない定番のデザインを採用、ファスト・ファッションにありがちなトレンドを追わず、長く使えることを第一に考えた衣料品が揃います。また、同店の商品の中には、廃棄処理するほかないほどに傷んだ衣料品からアップサイクルされたものもあります。こうした傷んだ衣料は、細かく裁断し、新たな商品の材料に使われます。場所:デュラン・ロード42

➢  コモンウェルス・マニュファクチャリング:ブランドにこだわらず、職人技や原材料、耐久性にスポットライトを当てた商品を重視する方針で、アパレル製造のあり方に一石を投じたショップです。ウィニペグで衣料品製造に携わる縫製作業チームには、最低賃金を上回る公正な賃金を支払い、材料には評判のいい工場から調達した天然素材を使用しています。場所:マクダーモット・アベニュー402-290

➢  アン・ミュライエ:アニシナアベ族とフランス系ヨーロッパ人のメイティ(先住民とヨーロッパからの移民の間に生まれた人々の子孫)であるAndréanne Mulaire Dandeneauが創業。先住民文化に根付く地球との強い絆に触発され、ファッション分野にも循環型経済の考えを取り入れています。同店の衣料品は、公正な賃金で働く女性たちが縫製しており、材料には、農薬や除草剤、化学肥料を使わずに栽培された天然素材が使われています。場所:マルビー・アベニュー303-421

ケベック州モントリオール
モントリオールには、環境に配慮したスタイリッシュな衣料を手がけるサステナブル・ファッションのブランドが集まっています。

➢  ローズ・ブッダでは、リサイクル素材やオーガニック繊維を使った衣料を製造しています。例えば、プラスチックボトルから得られた再生樹脂を80%使い、無溶媒で無毒性の昇華捺染方式で染色したシックなレギンスなどがあります。場所:カナダ全国のショップで取り扱いあり

➢  マット&ナット:動物由来の材料を使わないビーガン・ファッションのブランドとして、人気のバッグやアクセサリー、靴などを手がけ、全国的な知名度を誇ります。エコに優しく、動物にも優しい素材を使うだけでなく、靴のライニング(裏材)は、プラスチックボトルから得られた再生樹脂を100%使用しています(最近は自転車タイヤの再生材料も使用)。場所:カナダ全国のショップで取り扱いあり

ミミ&オーガスト:従業員に人間らしいまともな労働時間と公正な賃金を保証するとともに、児童労働に手を染めない明確な方針を打ち出している零細工場だけと手を組むエシカル・ブランドです。さらに、同ブランドの水着はデジタル捺染方式を使用し、他の方式よりも水の使用量を抑えています。場所:サンタマブル通り162

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