天然の空気清浄機であり、気候変動と戦う頼もしい戦士であり、生物多様性の救世主――。そんなさまざまな顔を持つ森林は、地球を守り、わたしたちの健康やウェルビーイング(身体的・精神的・社会的な健やかさ)を後押ししてくれます。
カナダは圧倒的な森林被覆率を誇り、広大な国土の半分以上が森林に覆われています。カナダの森で体験する森林浴は、単なる自然体験にとどまらず、文化的、社会的な繋がり感じながら、身体・心・魂を整えることができるのです。


Great Bear Rainforest - Destination BC

たくさんの木が集まっているだけに見える森も、カナダの生態学者スザンヌ・シマードによれば、はるかに複雑で高度な「場」となっていて、木々が互いにコミュニケーションを取り、情報を共有しながら森全体の健全性を維持しているといいます。各分野の専門家によるプレゼンテーションでお馴染みのTEDトークにシマードが登壇した際、次のように語っています。「そのような別世界が(森の)地下に広がっていて、互いにコミュニケーションを取りながら、森がまるで1つの生物のように振る舞っています」。

森には、文化的、社会的な影響力もあります。特に、ほとんどの先住民のコミュニティは森林地帯の中か付近にあるため、先住民の暮らしにはなくてはならないものと言えます。心身を健やかにしてくれるほか、レクリエーションやエコツーリズムの場にもなることから、生活の質を高める役割も果たします。近年、森林の健康効果を活用する方法として、日本発祥の森林浴が世界に広がっています。誰でも楽しめる森林浴は、「今」に集中して森の中を歩きながら、免疫系の強化、血圧の抑制、エネルギー増強、気高揚、集中力向上など、さまざまな効果が得られます。コロナ禍で改めて森林浴に注目が集まった感がありますが、実は先住民の間では、自然と深くふれあうという基本的な考え方が数千年も前から実践されています。

カナダの一部の州では、医師など医療関係者が、患者の不安感緩和や健康増進を目的に、処方箋として自然の中に身を置く時間を指示することもあるほど、森林の効能が認められています。2020年11月にはBC州公園財団が「PaRx」と称する自然体験処方対応プログラムを開始しています。このプログラムによれば、週に合計2時間(1回当たり最低20分)を自然の中で過ごすことを推奨しています。ブリティッシュ・コロンビア州にあるブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の植物園新渡戸記念庭園などの公園では、PaRxの処方箋を携行する患者向けに無制限の無料入園を認めています。

このスポットのエキスパート:人類学者で教員免許を持つキャンディス・カンポは、BC州の森を案内しながら、自ら属する先住民の文化や歴史を紹介しています。自ら経営するツアー運営会社タレイセイ・ツアーズに加え、スタンレーパークにまつわるさまざまな物語を収録したアプリも開発しています。

カナダの森林浴スポット:カナダで森のウェルネス体験が楽しめるスポットをご紹介します。

BC州

  • ハイダ・ボルトンは、BC州サンシャイン・コーストのペンダー・ハーバーを拠点に、子供向けに自然に親しむデイキャンプを主催するほか、屋内・屋外のリフレクソロジーも提供しています。BC州初の自然・森林セラピー協会認定の森林セラピーガイドとして、自身が経営するネイチャー・ウィズ・ハイダが主催する森林セラピーウォークに同行しています。
  • バンクーバー島には森のトレイルが何百も張り巡らされていて、絶景、樹齢数百年の巨木、野生動物観察スポットが楽しめます。バンクーバー島では、カシードラル・クローブにある樹齢800年のダグラスファー(ベイマツ)林や香り豊かなスギ林、エルク・フォールズ州立公園の迫力ある滝など、森の癒しパワーをたっぷりと浴びることができます。このスポットのエキスパート:ワイルドプレイのオーナー、トム・ベンソンは、都市部の土地や開発地のグリーンベルト(自然保護区)の保全に取り組んでいます。ワイルドプレイは、アウトドアに飛び出し、自然とふれあい、人々の絆を深め、自分を見つめ直すことの大切さを訴えています。
  • バンクーバー島のマラハット・スカイウォークでは、海からの新鮮な空気を満喫しながら、イワナシやダグラス・ファーの森を散策できます。木々の間を縫うように高所に設けられたツリーウォークを進んでいくと、螺旋状の通路を備えた展望塔があります。高さ32メートルの展望塔から見渡すと、海に浮かぶ島々やフィヨルド、森、山々の絶景が。展望塔の上には、吹き抜けにネットを張ったアドベンチャーネットと呼ばれるアトラクションがあり、このネットの上を恐る恐る歩くと、足元にはネット越しに森が広がっています。また、展望台からの帰りは、螺旋状の滑り台で一気に滑り降りることができます。

ニューファンドランド&ラブラドール州

  • グロス・モーン国立公園にあるスティーブズ・トレイルを歩くと、「タッカモア」と呼ばれる不思議な形の木々生い茂る森が現れます。この木々は、沿岸や高山帯に吹き込む風の影響で幹が曲がり、複雑に絡み合ったような形状になったものです。タッカモアの森を抜けると、海辺の牧草地にたどり着きます。針葉樹の香に包まれて、寄せては返す波音を聞きながら、公園北岸の見事な眺めを堪能できます。森林のウェルネス活動はほかにもたくさんあります。詳しくは、グロス・モーン国立公園の「Healthy Parks Healthy People」プロジェクトのサイトをご覧ください。

プリンス・エドワード島州

  • マウント・トライオンのツリートップ・ヘイブンには、森の中に浮かぶムードのあるドーム型の宿泊施設、ツリーポッドがあります。この施設では、森林浴専用のトレイルとエリアがあるほか、ヨガインストラクターやマッサージセラピストもそろっているため、心身の活性化を図ることもできます。トレッキングにお勧めのクレイグズウェイ・トレイルは、数々のバードウォッチング・スポットが自慢の緑の楽園です。1日の終わりには、ジオデシックドーム(軽量のドーム式構造物)のツリーポッドに宿泊、大自然の爽やかな音を子守唄にぐっすり休みます。
  • ウォーキングシューズを手に、究極のトレッキングに出発。めざすは、プリンス・エドワード島全域に張り巡らされた全長700キロメートルのアイランドウォークです。このトレッキングルートは、32の区間で構成されていて、ルート上にはさまざまな観光スポットや多種多様な地形、休息施設などがあります。また、森の中を歩くトレイルも多数あります。アイランド・ウォークのウェブサイトでは、トレッキングの旅をもっと充実させるセルフガイド型のサンプル旅程が用意されています。
  • 緑豊かな森に囲まれたラグーンに佇むネイチャー・スペース・リゾート。この辺りはプリンス・エドワード島州でも特に多様性あふれる生態系が広がっています。ここに宿泊したら、ぜひドラゴンフライ・ラビリンスの歩行瞑想を。曲がりくねった道を進んだ先にある中央庭園でじっくり瞑想にふけることができます。ここの森は、昼も夜も安心して散策でき、夜間にはリゾートが運営する五感を刺激する体験プログラムがあり、星空の幽玄の美、森の静寂を全身で味わいます。ほかにもカヤックやスタンドアップパドルボード(SUP)、ヨガ、マインドフルネス・プログラムなど自然志向のアドベンチャーが盛りだくさんです。このスポットのエキスパート:オーナーのヘザー・ガンマキランとジャロッド・ガンマキランの夫妻。

アルバータ州

  • アルバータ州のバンフ国立公園の中心で五感を刺激する体験が楽しめるフォレスト・フィックス。日本発祥の森林浴に欠かせないマインドフルネス体験もあります。家族経営のアットホームなフォレスト・フィックスは、エコヨガ(壮大な山の景色に囲まれてハイキングとヨガを体験)や森林浴(森の癒し空間でマインドフルネスのひとときにどっぷりと浸かる体験)が堪能できるほか、森への外出が困難なゲスト向けに仮想森林セラピーもあり、手軽に、しかも効果的に身体・心・魂の癒しができます。このスポットのエキスパート:オーナーでガイドとコーチを兼任するロナ・シュニーベルガー。
  • バンフでは、アート・イン・ネイチャー・トレイルでちょっと変わった森林浴が楽しめます(2023年は7月〜9月に開催)。これは、アウトドアの展覧会をテーマにした企画で、ナンシー・ポー橋からボウ滝まで歩き、セントラルパークを通って戻るルートには、ボウ・バレーのアーティストが手がけた65点以上の作品が、森の中や川沿いの散策道に展示されます。展示作品はいずれも自然が持つ元気回復力に敬意を表すもので、カナディアン・ロッキーに秘められた変革エネルギーを斬新な視点で捉えています。

オンタリオ州

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