カナダのシンボルとも言うべきメープルシロップは、その希少性や色合いから「リキッド・ゴールド(液体のゴールド)」の異名をとるほど。そんなメープルシロップは、メープル(カエデ)の甘い樹液から作られます。カナダ国旗の中央で、存在感を示している葉がまさにメープルです。

“スイートホーム”:メープルの森が広がるカナダは、世界のメープルシロップ生産量のおよそ75%を生産しています。抗酸化作用が豊富な100%天然甘味料のメープルシロップはすっかりカナダの文化に浸透しています。その歴史をたどると、先住民が採取した樹液を煮詰め、とろけるような甘い物質を作り出していたのが始まりとか。メープルの木にはいろいろな種(クロカエデ、アメリカハナノキ、ギンカエデなど)があり、どれでもシロップは作れるそうですが、実際にメープルシロップに使われているメープルの大部分は、サトウカエデという種です。

ニュースから:先月、カナダがメープルシロップの戦略備蓄の放出を開始というニュースが世界を駆け巡りました。そもそもメープルシロップが戦略物資として備蓄されているとは夢にも思わなかったと、多くの人々が驚きを隠せませんでした。同時に、今年は大幅なシロップ不足に陥るのではとメープルファンをやきもきさせることになりました。衝撃的なニュースでしたが、実際のところ、生産量が例年を下回った年には、流通量確保と価格安定化を目的に政府が備蓄を放出することになっていて、まさに今年はその条件に当てはまったというのが真相です。とはいえ、カナダの顔として、またカナダ経済にとっても、メープルシロップの重要性が浮き彫りになった出来事でした。

味わいを楽しむ時期・場所・方法:春先になると主にケベック州を中心にメープル樹液採取シーズンが始まります。ケベック州は世界のメープルシロップ生産量の実に3分の2を供給する本場です。ほかにもオンタリオ州、ニュー・ブランズウィック州、プリンス・エドワード島州、ノバ・スコシア州でもメープルシロップが生産されています。こうした州は、米国の一部地域も含めて、いわゆる「メープルベルト」を構成しています。昔はメープルの木にくくりつけたバケツに樹液を集めてから樽に移し、馬車やトラクターで小屋に運び込んで蒸発・濃縮していました。今日では、生産農家は、逆浸透膜や木から直接貯蔵タンクに送り込むチューブシステム(配管設備)、高性能エバポレーター(蒸発器)など最新技術を駆使して、生産工程を合理化しています。

歴史の陰にもメープル:第二次世界大戦中、カナダの農務省は、配給支援のために、加工糖ではなくメープルシロップを利用した戦時レシピ集を発表しました。時は下って2011年から2012年にかけて、3000トン(当時のレートで約15億円相当)ものシロップがケベック州の生産者施設から盗まれる「メープルシロップ大量盗難事件」が発生し、市況の混乱につながりました。オンタリオ・メープルシロップ博物館(オンタリオ州セント・ジェイコブス)では、メープルシロップづくりの歴史・工程を紹介する展示やビデオを通じて、魅惑のメープルシロップのあらましを知ることができます。カナダでは、国内各地にある「シュガーシャック」(樹液を煮詰めてメープルシロップを作る小屋を指す通称で、砂糖小屋の意味)をはじめ、数え切れないほどのショップやレストランでメープル樹液採取シーズンの恵みをたっぷり楽しめます。

 

シュガーシャックを訪ねる:雪解けでメープルの木々や樹液が活気を取り戻す春先にカナダを訪れたら、しばらくすると4〜6週間に渡って樹液採取シーズンに突入します。カナダでメープルシロップの季節を体験するなら、ケベック州に多数あるシュガーシャックがお薦めです(玄関口はモントリオールかケベックシティを利用)。シュガーシャックは、メープルの森の中に建てられた木造の小屋で、メープルシロップづくり専用に使われます(シュガーシャックの解説は、こちら)。多くのシュガーシャックでは、収穫シーズンを祝ってメープル一色の楽しいイベントが開催されます。もちろん料理やドリンクにももれなくゴールドに輝くシロップが使われます(メープルシュガーパイ、メープルドーナツ、パンケーキ、メープルタフィーなど盛りだくさん)。

 

お見逃しなく!:オ・ピエ・ド・コション・シュガーシャック(モントリオール)に立ち寄ったら、すぐに席を確保(人気スポットなので、いつも混んでいます)。シュガーシャックの定番メニューを独自にアレンジしたスイーツは絶品です。もう1つ、モントリオールでお薦めは、デリセ・エラーブル&シー。メープルシロップをメープルシロップ配合のリップグロスや棒付きキャンディ、瓶詰め高級シロップまで多彩な品揃えです。リゴーにあるシュクルリー・ドゥ・ラ・モンターニュは、フォークシンガーの演奏やダンスで活気あふれるスイーツ食べ放題のお店です。

ケベック州外:ノバ・スコシア州アールタウンにある家族経営農場シュガー・ムーン・ファームでは、2500本の木に樹液採取用のタップが取り付けられているメープルの森を舞台にしたメープルシロップ・アドベンチャーという企画を開催しています。また、レストランでは、メープルを生かした料理が堪能できます。オンタリオ州オタワに近いプルー・メープル・ファームでは、毎年、メープルフェスティバルが開催されています。パンケーキの朝食、メープルの森でのハイキングかスノーシューイング、メープルバターやメープル綿菓子などのおやつなどが楽しめます。ニュー・ブランズウィック州モンクトンにあるモンクトン・メープルシュガー・キャンプは、カナダ唯一の市営シュガーシャック。メープルキャンプの歴史やメープルの栄養価、メープル製品開発技術の進化について解説するツアーを実施しています。


Tourism Nova Scotia _ Acorn Art _ Photography

甘い香り豊かなフェスティバル:メープルシロップのシーズンと言えば、忘れてはいけないのがメープルシロップを前面に押し出した地元のフェスティバル。オンタリオ州エルミラでは、3月に終日のイベント、エルミラ・メープルシロップ・フェスティバルが開催されます(2022年の日程はウェブサイトを参照)。取れたての新鮮なメープルシロップをたっぷり使ったふんわりパンケーキが振る舞われます。ケベック州サン・ジョルジュのフェスティバル・ボースロン・ドゥ・レラーブル(4月1日〜30日)は、メープルを生かした料理のほか、子供たちに人気のスーパー滑り台やお城型の巨大ふわふわ遊具、野外ステージが登場します。オンタリオ州トロントのシュガーシャックTOは、できたてのメープルタフィー、メープル・フライドチキン・タコスやメープルバッファロー・テイタートッツ・プーティンなどメープル風味のほっとする味を提供するシューガーシャックが2つあるほか、焚火台や薪ストーブで体を温められるコーナーもあります。さらに、メープル樹液採取の実演もあります。

 

スポットライト:イースタンタウンシップを巡るメープルの旅
ケベック州南東部のイースタン・タウンシップスは、シュガーシャックもメープルシロップ体験スポットも多数あります。この地域で最高のメープルシロップ製品の試食・ショッピングを楽しむ週末の旅をご紹介します。


Tourism Quebec

第1日目:ブリガム地域(モントリオールから約1時間)の森の散策で1日をスタート。300年の時を刻む古木の存在感にしばし思いを馳せます。

  • 続いて素朴な雰囲気あふれるカバネ・ドゥ・ピック・ボワに立ち寄り、心のこもったメープルの森の食事を味わいます。
  • 次に向かうのは、結婚式会場などに使われる施設、ドメーヌ・ドゥ・ラルティザン。美しい敷地内を散策後、美しい田園風景に囲まれた環境で、メープルシロップをさらに煮詰めて水分を飛ばしメープルシュガーに変える「シュガリングオフ」という伝統行事も体験します。
  • お祭りムードを楽しむ旅の合間には、ミルボワ・アンブルに立ち寄ります。ここには、地元産メープル樹液を使ったメープル発酵飲料があります。また、パティスリー・シェ・ドービルには、おやつにぴったりの極上メープルエクレアがあります。宿泊はブロモントからほど近いドメーヌ・シャトー・ブロモントでラグジュアリーな夜をゆったりと過ごします(糖分で少々ハイな気分になっているはずなので、体を休めましょう)。

第2日目:ブリガムから車で15分のダナムへ。ここは、グルメファンの期待に応える昔ながらのシュガーシャックのメニュー(グルテンフリーのメニューもあり)を提供するル・ヴィニョブル・ドゥ・リュイソーがあります。敷地内にある10,000本のメープルの木にタップ(樹液採取口)が取り付けられているおかげで、併設ブティックにはメープルを生かした多種多様な商品が並んでいます。

  • ヴィニョブル・ドゥ・リュイソーでお試しいただきたいのが、メープル・バブルというスパークリングのアルコールドリンク。伝統的なシャンパンと同じ製法で作られています。また、アンガバ・スピリッツでは、地元産メープルシロップ、フレッシュクリーム、穀物アルコールを使った名物のメープル・クリーム・リキュールを生産しています。
  • 続いて車で1時間ほどのヴァルクールに向かいます。ここにあるオー・ベック・シュクレでは、1本1本のメープルの木にバケツをくくりつける昔ながらの採取法が守られています。敷地内には、ウマやヒツジの親子が飼われているほか、もちろん、極上のメープルシロップも販売されています。

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