カナダにある美術館、公立アートギャラリー、博物館は2,600館以上。全体で年間6200万近い人々が来館しています。
美術館・博物館の大切な役割:街の文化拠点であるだけでなく、再生力ある経済への要でもあります。遠くからの訪問者と地元住民の架け橋として、カナダ全体の遺産について低料金(ときには無料)で知識や理解を深める場を提供するとともに、グローバルな課題を解決するきっかけづくりに寄与します。また、過去を保存し、未来を描く一助にもなっています。
世界がロックダウンに突入するや、イノベーションを駆使してバーチャル・プログラムを打ち出し、誰でも自宅に居ながらにして学びや探求を続ける環境を整えていました。例えば、マニトバ博物館は、地元天文学者が監修する無料天体番組「DOME@HOME」をウェブ上で毎週提供しています。ケベック州のジョリエット美術館は、毎月発表の意外なテーマに沿って一般から作品を投稿してもらうバーチャル展示スペース、「Quarantined Museum」(自己隔離ミュージアム)を立ち上げました。さらに、オンタリオ美術館(AGO)の「AGO from Home(自宅で楽しむAGO)」は、子供から大人までアート好きのための魅力あふれるストーリーや手づくりプロジェクトを提供しました。
ほとんどの施設が再開に乗り出した今こそ、美術館・博物館の魅力を再発見してみませんか。なお、多くの施設が特定日や特定時間に無料公開となっています。ここでは、一部をご紹介します。
イヌイットアートの拠点:イヌイット(カナダ北部に住む先住民)のアートや文化に特化した美術館、Qaumajug(カマユグ)が、2021年3月にマニトバ州ウィニペグのウィニペグ美術館(WAG)敷地内にオープンしました。注目ポイント:カマユグは、17,187平方メートルとカナダ最大級の美術館であり、イヌイットアートでは世界最大の現代コレクションが収蔵されています。まだ間に合う!:「Heartbeat of a Nation」(国家の拍動)展では、メイティ(先住民とヨーロッパからの移民の間に生まれた人々の子孫)のアーティストであるトレイシー・シャレット・フェールが1770年から2020年の歴史をたどり、先住民の中でメイティの女性が持つ強さや逆境を生き抜いてきた力に光を当てます。また、フェールは、手づくりの窯焼き陶器250点を制作しており、展覧会終了時にマニトバ州のメイティの女性にプレゼントする予定です(2021年11月6日まで)。
歴史の世界に入り込む:アルバータ州のフォート・エドモントン公園で1億6500万ドルを投じて進められていたリニューアル工事が完了し、新たに先住民体験施設が誕生しました。生きた歴史を展示する博物館としてはカナダ最大規模を誇ります。注目ポイント:展示内容は、先住民の長老や歴史学者、教育者、コミュニティ住民など50人以上からの聞き取りを通じて集められた物語や音楽、芸術、文献のほか、各種史料や研究成果もあります。
カナダ西部史:アルバータ州エドモントンにあるロイヤル・アルバータ博物館は、何百万年ものアルバータの歴史をたどることができます。注目ポイント:同博物館の人類史ホールでは、現代のファースト・ネーションズ(北米インディアン)やメイティの様子を描いたインタラクティブ展示「What Makes Us Strong(私たちの強さの根源)」が開催されています。そのほか、先住民が自然を上手に利用しながら何千年もの歴史を生き抜いてきた術や、植民地化の時代に独自の文化を守り続けた不屈の精神なども展示を通じて知ることができます。まだ間に合う!:オンラインと対面の両方式で開催される「Breathe」(息づかい)展は、2人のメイティのアーティストが中心となり、先住民と非先住民からなるアーティスト集団を率い、独特の仮面を通じて世界的な感染拡大の状況に対する感情を表現します。それぞれの仮面は、アーティスト自身の文化に根ざした材料で制作されていて、希望と癒しを自分なりに表現しています(2021年10月11日まで)。
恐竜一筋:アルバータ州ドラムヘラーのロイヤル・ティレル古生物学博物館は、世界屈指の古生物学研究拠点に位置づけられ、古代生物の研究を専門に手がけるカナダ唯一の博物館です。注目ポイント:アルバータ州は、世界でもとりわけ厳格な化石保護法を制定しており、ロイヤル・ティレル古生物学博物館が極めて充実した化石コレクションを保有しているのも、こうした法整備と無縁ではありません。同博物館は、脊椎動物、無脊椎動物、植物の化石や地質標本60,000点を収蔵、毎年3,000点が新たにコレクションに加わっています。まだ間に合う!:恐竜の枠にとどまらず、最近、「新生代:哺乳類の台頭」と題した新たな展示ホールを開設、新生代(約6600万年前から現在)に登場した多種多様な生命の摩訶不思議を探ります。
ブリティッシュ・コロンビア(BC)州の物語:BC州ビクトリアのロイヤルBC博物館は、BC州の自然史・人類史を物語る700万点に及ぶ膨大な収蔵品を展示しています。注目ポイント:地元に焦点を当てるだけでなく、タイタニック号、レオナルド・ダ・ヴィンチ、エジプト、バイキングなど、歴史に残る集団や出来事をテーマにした国際的な特別展も頻繁に開催しています。まだ間に合う!:先ごろ、BC州での黒人の貢献にスポットライトを当てた展覧会「Hope Meets Action: Echoes through the Black Continuum」(希望と行動が出会うとき:黒人史に脈々と受け継がれる思い)展が始まりました。同展の企画・解説・制作には、黒人の声が反映されています(2022年3月1日まで)。
脈々と受け継がれるカヌー文化:オンタリオ州ピーターボロにあるカナディアン・カヌー博物館は、カナダ人にとって長きに渡って重要な存在であるカヌーを中心に、カヌー、カヤックなどパドル式の船をテーマにした世界最大のコレクションを誇ります。注目ポイント:太平洋北西部の先住民が使っていた大きな丸木舟から、ニューファンドランドの樺の木の皮を張ったカヌーまで、カナダ全土に伝わる遺産を紹介しています。まだ間に合う!:2023年夏、カナダ全土を結ぶ長距離自然歩道トランス・カナダ・トレイルからもアクセスしやすいリトル・レイク沿いの6038平方メートルの敷地に移転オープンします。展示ゾーンは、多彩なカヌーを紹介する「All My Relations」ゾーン、人と地域を結びつけたカヌーの役割に光を当てる「Connected by Canoe」ゾーン、人類の飛躍を支えたパドル式の船の歴史を探る「Pushing the Lights」ゾーンを始め、全7ゾーンで構成されます。
圧巻のスケール:オンタリオ州トロントにあるロイヤル・オンタリオ博物館(ROM)は、カナダ最大の博物館で、北米でも最大級とされます。また、年間100万人が訪れるなど、カナダ最大の来館者数を誇ります。注目ポイント:40もの展示スペースに1300万点の芸術作品、文化財、博物学標本など膨大なコレクションが並び、すべてを見て回るには数日かけても足りないほどの巨大博物館です。ROMには、恐竜、隕石、衣装など、あらゆる分野が揃っています。まだ間に合う!:「Breaking the Frame」(枠を打ち破る)展は、アンセル・アダムスやドロシア・ラングなど著名写真家が従来とは異なる斬新なアプローチで捉えた珍しい主題の作品90点以上を展示します(2022年1月16日まで)。
移民の玄関口:趣があり、歴史とも深いつながりのある博物館といえば、ノバ・スコシア州ハリファックスのピア21カナダ移民博物館を抜きには語れません。注目ポイント:同博物館は、1928年から1971年までにカナダをめざした移民100万人の玄関口である国定史跡ピア21にあります。移民が果たした重要な役割を探り、カナダの文化・経済・暮らしへの移民の貢献にスポットライトを当てます。まだ間に合う!:「A Canadian Dream: The Passengers of the SS Maasdam July 6, 1968」(カナディアン・ドリーム:1968年7月6日SSマースダム号の乗客たち)展は、カナダでの充実した暮らしを求めてSSマースダム号に乗り込んだオランダ人乗客たちの旅をたどります(2022年開催)。
ピカソ作品の穴場:サスカチュワン州サスカトゥーンにあるレイミー・モダンには、カナダ最高峰の近現代アートのコレクションがあります。11の展示スペースを通じて、カナダ的視点、サスカチュワン的視点から近現代のアートムーブメントを捉えることができます。注目ポイント:同館には多くの名品がありますが、特に注目したいのは、現存する中では最も充実したピカソのリノリウム版画コレクション。さらには、大変希少なピカソの陶磁器作品も20点以上あります。まだ間に合う!:「Time Holds all the Answers」(時がすべての答えを知っている)展は、マルチメディア・インスタレーション、サウンド作品・テキスト作品、建築レベルの巨大彫刻を展示し、資源採取・土地利用、毒性・汚染、先住民言語と植民地宗主国言語の間の翻訳などのグローバルな問題を提起します(2021年9月18日〜2022年1月23日)。
アートの中心地:ケベック州モントリオールにあるモントリオール美術館は、カナダ最古の歴史を誇る美術館であり、絵画、音楽、映画、ファッション、デザインなど45,000点以上を展示しています。注目ポイント:80以上の展示スペース、コンサートホール、講堂、映画館、彫刻庭園を通じ、地元ケベックを始め、カナダの遺産に親しむことができます。また、教育やアートセラピーの拠点も併設されています。まだ間に合う!:「Species without Borders」(国境なき種)展は、カナダと米国の国境周辺に生息する北米の野生動物種にスポットライトを当てた魅力的な写真展。こうした動物が暮らす生態系を守ろうと両国が取り組む共同保護活動にも重点が置かれています。(2021年12月31日まで)
人権を守る:マニトバ州ウィニペグにあるカナダ人権博物館は、人権の意識啓発と教育に特化した世界唯一の博物館です。同館の建物も、建築面で非常に際立ったもので、3Dモデリングや、「クラウド」の愛称がある巨大ガラスの外観など斬新で型破りなデザインが特徴です。注目ポイント:この博物館は、すべての人々の権利平等を強く訴えるストーリーを多数伝えています。言うまでもなく、誰もが分け隔てなく受け入れられる設計やバイリンガルの展示・プログラムを採用するなど、ユニバーサルデザインの新たなスタンダードを打ち立てています。まだ間に合う!:アーティビズム(芸術と行動主義の融合)は、大規模な人権侵害への反応としての芸術表現に重点を置いています。このアーティビズムをそのまま展覧会名にした特別展では、世界の大量虐殺事件の事実を世に問い、糾弾するとともに、防止を訴えるなど、行動主義的アプローチを展開する6組のアーティストやアート集団に光を当てています(2021年4月30日〜2022年1月16日)。
スモール・イズ・ビューティフル:カナダには、ランドマーク的な有力美術館・博物館もありますが、小規模で風変わりな施設もたくさんあります。アルバータ州キャンモアにある歩道美術館(Curbside Museum)は、その名のとおり、公共歩道沿いに設置したフェンスが展示スペース。このミニ美術館は2カ月ごとに展示が入れ替わります。ニュー・ブランズウィック州セント・スティーブンにあるチョコレート博物館には、古いキャンディ工場の建物が利用されており、チョコレートの製造方法の解説コーナー、昔のキャンディボックスの展示、100年も前から使われているチョコレート製法を受け継いでいるチョコレート工房などがあります。オンタリオ州セント・ジェイコブスにあるオンタリオ・メープルシロップ博物館は、カナダの代名詞とも言うべき甘いシロップの歴史を紹介します。